浄土真宗の葬儀
大切な方の「死」は、誰しも、つらく悲しい出来事に他なりません。しかし、浄土真宗の葬儀は、ただ悲しいだけのものではありません。悲しみの中にも救いがある、それが浄土真宗の葬儀なのです。 平生に阿弥陀さまのお慈悲を喜ばれた方は、臨終のその時に、お浄土へと往生させていただき、この上のない如来さまとならせていただきます。人としての命の終わりが、同時に、如来さまとしての命の始まりとなる、そこに人としての命の本当の尊さが味わわれてくるのです。 如来さまとなられたお方は、私たちの肉眼に映る姿はありませんが、お念仏の声を通して、常に私を教え導く存在として、いつも寄り添い、ご一緒くださっています。決して遠い世界へと旅立ち、あの世で一人ぼっちの安眠をむさぼっているのではないのです。 ですから、私たち浄土真宗の門徒は、故人の冥福を祈ることはありませんし、別れを告げることもないのです。
臨終から満中陰までの流れ
葬儀と一口で言っても、宗教や宗派によって考え方はさまざまです。当然、内容や進め方などにも大きな違いがあります。そこで、「浄土真宗の葬儀」ということを念頭に、臨終から満中陰までの流れとその意義について考えます。
大切なご家族がお亡くなりになったら
②葬儀社へ連絡(自宅外で亡くなった場合は、霊柩車の手配をしてもらう)
③お寺、葬儀社と相談し、葬儀までの日程や葬儀内容などを決定
④親族などへ日程を連絡
⑤法名・院号の授与を確認
⑥葬儀社と細かい打ち合わせ
〇友引(ともびき)・仏滅(ぶつめつ)の考え方について
葬儀には、死を忌み嫌う世俗の考え方が混じりやすく、それによって昔から様々な習俗や迷信が生み出されてきました。友引や仏滅などといった六曜(ろくよう)も、それに利用されてきたものの一つです。 特に、葬儀の日程を決める際、友引と仏滅を気にされる方がおられます。六曜は「先勝→友引→先負→仏滅→大安→赤口」と六つの曜日を配置した単なる暦の一つなのですが、それを、その字面だけにとらわれて「友引は、友をあの世に引き込む」、「仏滅は縁起が悪い」などと気にするのは、まさしく迷信にとらわれている姿に他なりません。 葬儀を厳粛なものにするためにも、習俗や迷信に惑わされないようにしましょう。臨終から満中陰までの流れ
葬儀と一口で言っても、宗教や宗派によって考え方はさまざまで、内容や進め方などにも大きな違いがあります。ここでは、浄土真宗の葬儀について、その意義と考え方を解説します。
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1.仏前の荘厳(しょうごん)
お仏壇にお花やお香をあげたり、お菓子や果物をお供えしたりすることを仏前荘厳といいます。家族が亡くなった時の荘厳には、仏華(ぶっか)と打敷(うちしき:仏前を飾るための三角形の布)に特徴があるといえます。 普段の荘厳とは違い、仏華は樒(しきみ)などの青木にします。また打敷は、銀色又は白色のものを掛けます。銀や白の打敷がない場合は、ほとんどの色打敷の裏地が白色ですので、それを表にして掛けます。 浄土真宗では、守り刀、一膳飯(いちぜんめし)、団子、一本花などは、み教えのうえから必要としませんので、お供えをすることはありません。また、同様に「枕飾(まくらかざり」も設けません。
・仏華は樒などの青木(常緑樹)にする
・打敷を銀または白とする(ない場合は裏返して使用する)
・お仏飯をお供えする
・枕飾り、枕団子、一膳飯、一本花、カップローソク、巻線香は用いない -
2.臨終勤行(りんじゅう ごんぎょう)
一般的に「枕経(まくらきょう)」といわれ、故人に対してお経をあげるように思われがちですが、本来は、まさに臨終を迎えんとされる方が、阿弥陀さまのこれまでのお育てに今生(こんじょう)最後のお礼を申し上げるお参りのことです。しかし、実際にはそれが難しいため、多くの場合、臨終後に僧侶や遺族が本人に代わってお勤めすることになります。 仏前に集う方々は、故人の阿弥陀さまへの思いを受け止めながら、お互いに報恩感謝(阿弥陀さまのご恩にたいする感謝)の心持ちでお参りいたしましょう。 なお、臨終勤行の際にご遺体に向かって読経することはありません。必ず、ご本尊である阿弥陀さまに向かってお参りします。
お勤めする場所にお仏壇がない場合、名号(みょうごう:南無阿弥陀仏)の掛軸を掛けるなどしてお勤めしてください。
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3. 通夜(つや)
亡くなられた日から葬儀の前日までの夜を通夜といいます。文字通り、夜を通して故人と寄り添い、諸行無常(しょぎょうむじょう)、諸法無我(しょほうむが)の道理を聴聞させていただく大切な夜です。 最近では、葬儀の前夜に有縁の人々が集い、通夜勤行(つやごんぎょう)として定刻に勤行 (ごんぎょう)することが一般的になりましたが、ひと昔前は夜通し人々が弔問に訪れ、朝までお念仏の声が途絶えなかったといいます。 深い悲しみの中にも聞法を忘れることなく、限られた時間を大切に過ごしましょう。
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4. 葬儀(そうぎ)
葬儀は、一般的に「追善供養(ついぜんくよう)や鎮魂慰霊(ちんこんいれい)を目的に営まれる死者を弔う儀式」と考えられることがほとんどのようです。しかし、浄土真宗のみ教えのうえからは、故人は天国や冥土(めいど)に行くのでも、幽霊になるのでもなく、お浄土へ往生して如来さまとなるのです。 ですから、葬儀は故人の往生をご縁として、阿弥陀さまのお慈悲を仰ぐ厳粛な儀式としてお勤めします。お参りをなされる方々は、故人の生前のご恩に感謝しつつも、「今後は如来さまとしてご教導ください」という思いを込めて、心静かにお聴聞、お念仏いたしましょう。
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5. 火屋勤行(ひやごんぎょう)
火屋とは、火葬場のことです。葬儀後に火葬場へ向かい、火葬の直前に行うのが火屋勤行です。これまで人生をともに歩んだ故人が荼毘(だび)にふされるにあたり、その悲しみのなかに届けられるみ教え(お経)です。 悲しいとき、辛いときにこそ、浄土真宗のみ教えが支えてくださいます。
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6. 環骨勤行(かんこつ ごんぎょう)
還骨とは、火葬場から「遺骨を持ち還(かえ)る」という意味です。家族が遺骨を自宅のお仏間へと持ち帰り、その悲しみの中で行われるのが還骨勤行です。 すでに在りし日の故人の姿はなく、目の前には遺骨が納められた骨壺が置かれています。その変わり果てた姿に落胆する家族に対し、すでにお浄土の如来さまとなられた方から尊いみ教え(お経)が届けられるのです。「私は骨となったわけではありません。如来となってここに還ってきたのですよ」と、そう知らせていただくかのような法縁です。 ※持ち還った遺骨は中陰壇(ちゅういんだん)に置き、還骨勤行はお仏壇にて行います。
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7. 中陰(ちゅういん)
中陰とはインドで生まれた輪廻思想のなかで使われる言葉で、臨終後、次の命を得るまでの四十九日間のことを指しました。中陰の期間、迷いの中にある故人に対して七日ごとに審判が下るとされ、遺族は故人の冥福を祈って追善の供養をしなければならないと考えられていました。そして、中陰の満ちる四十九日目は「満中陰」と呼ばれ、故人が最後の審判を受けて生まれかわる大切な日とされてきました。 一方、阿弥陀さまによって信心を恵まれ、命終と同時に如来さまとならせていただくご法義のうえからは、故人に対する追善供養(ついぜんくよう)を必要としません。ですから、浄土真宗では、習俗的に行われてきた中陰という慣習のうえに、新たな意義を見出し、それを大切にしてきたのです。 お浄土へ往生なされたお方は、如来として娑婆(しゃば)へと還ってきてくださいます。その具体的なはたらきが、中陰のいわゆる「七日参り」に表れるのです。 浄土真宗の「七日参り」は、大切な方を亡くして悲しみの中にある私のために、お浄土へと往生なされた方が還って来られ、七日ごとにお経(み教え)を届けてくださる、そういう尊い法縁なのです。 私たちは、中陰という期間を通して、如来さまとなられた故人の願いに耳を傾けながら、あらためて浄土真宗のみ教えを聴聞させていただけるのです。
お葬式のQ&A
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Qお葬式をする意味を教えてください。
お葬式は「葬送の儀式」を略した言葉ですから、「故人をお墓へと送り出すための儀式」という意味になります。ただし、浄土真宗のお葬式は、単なる「葬送の儀式」にとどまらず、会葬者が儀式を通して浄土真宗のみ教えを聴聞し、故人がお浄土へと往生なされたことを受け止めていく「ご縁」とするものです。
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Q浄土真宗では戒(かい)名(みょう)と言わないのですか。
戒名は、戒律(かいりつ)を受けたものが授かる名前ですから、戒律を受けない浄土真宗の門徒に戒名が授けられることはありません。浄土真宗では、帰敬式(ききょうしき)を受けてお釈迦さまのお弟子にしていただくと、そこで法名(ほうみょう)が授けられます。 法名は、仏教徒としての名乗りであり、決して故人に付けられる名ではありません。生前に帰敬式を受けるご縁のなかった方は、葬儀にあたり導師より法名が授与されますが、できるだけ生前に帰敬式を受け、法名を頂戴していただきたいものです。
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Q弔辞と弔電の心得を教えてください。
弔辞や弔電は、故人に対して弔意をあらわす世俗儀礼ですから、弔電はもちろん、弔辞も本来は葬儀中に披露するものではありません。しかし、現状では多くの場合、弔辞は故人の功績を称えたり遺族に対する弔意を表したりするものとして、葬儀のプログラムの中に組み込まれています。 そこで、せめてご法義にかなった表現、み教えを味わってもらえる内容にして、ご遺族や参列者に仏縁を結んでいただけるような弔辞としていただきたいものです。 たとえば、浄土真宗では「ご冥福(めいふく)をお祈りいたします」というお悔やみの言葉を用いません。その理由は、冥土の幸福を祈る必要がないからです。お悔やみの言葉としては、「謹んで哀悼の意を表します」や「慎んでお悔やみ申し上げます」などがふさわしい表現です。 弔辞を読まねばならない場合、住職に相談されてみてはいかがでしょうか。
※浄土真宗にふさわしい表現
① 御霊前 → 御尊前、御仏前
② 冥福を祈る → 哀悼の意を表す
③ 天国 黄泉の国 → 浄土
④ 安らかに眠る → 教え導く -
Qお焼香はどのようなときにするものなのでしょうか。
お香を仏前にお供えすることを供香(ぐこう)といいますが、供香には、焼香や燃香(ねんこう)、塗香(ずこう)などいくつかの方法があります。日常は火のついた線香を横に寝かせる燃香にてお供えし、焼香は葬儀や法事といった特別な仏事のときに行いますので、「正式な仏事のときにはお焼香」と考えて差し支えないと思います。 注意していただきたいのは、焼香の作法です。浄土真宗本願寺派の作法を確認し、正式な作法を身につけましょう。
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Q「お斎(とき)」とは何ですか?
お斎とは、仏事の際にふるまわれる食事のことを指しますが、単なる食事会ではありません。食事を通して仏さまの教えに遇う、そのようなご縁が本来のお斎です。 お斎はかつて、精進料理のみで行われていました。現代では、なかなか難しいものがありますが、せめてその精神だけでも受け止め、お斎も仏事の一環と考えていただければと思います。
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Q浄土真宗における忌中(きちゅう)や喪中(もちゅう)の考え方について教えてください。
忌中とは、一般的に、家族や親族といった近親者の死を受けて、心身ともに慎み、禁忌(きんき)を設ける期間のことをいいます。仏教徒は満中陰、神道は五十日祭までとされます。 忌中についての考え方は、宗教や宗派によって様々で、それによって種々のしきたりや風習があるようです。浄土真宗では、特に禁忌を設けることはなく、「世事を忌み、専ら聴聞する期間」とされてきました。大切な方が亡くなられた時、世間的な用事は二の次とし、最優先に阿弥陀さまの救いの法(浄土真宗の教え)を聴聞する。それが、真宗門徒の忌中の過ごし方なのです。 ちなみに、仏教では、「喪中」という考え方自体がありません。
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Q「三月越し」の満中陰(四十九日)法要が嫌われるのはどうしてですか。
幼稚な迷信に振り回されているからです。「四十九(始終苦)が三月(身につく)」という語呂合わせであり、浄土真宗では、そのような迷信にとらわれることこそ嫌います。 どうぞ、阿弥陀さまの願いを聞かせていただくご勝縁として、また、如来さまとなられた方に敬意と謝意を表す尊いご法縁として、迷信などに振り回されることなく大切にお勤めください。
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Q浄土真宗では戒(かい)名(みょう)と言わないのですか。
戒名は、戒律(かいりつ)を受けたものが授かる名前ですから、戒律を受けない浄土真宗の門徒に戒名が授けられることはありません。浄土真宗では、帰敬式(ききょうしき)を受けてお釈迦さまのお弟子にしていただくと、そこで法名(ほうみょう)が授けられます。 法名は、仏教徒としての名乗りであり、決して故人に付けられる名ではありません。生前に帰敬式を受けるご縁のなかった方は、葬儀にあたり導師より法名が授与されますが、できるだけ生前に帰敬式を受け、法名を頂戴していただきたいものです。
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Q浄土真宗では「清め塩」を用いないのですか。
「清め塩」というのは、死を「穢れ」とする神道から生まれたしきたりで、葬儀の後、邪気を祓うために塩で身を清めて自宅に帰るという風習をいいます。一方、真宗門徒は、死を「穢れ」だとは捉えていませんから、葬儀の後、塩で身を清めることはしません。さらに言えば、清め塩を行うこと自体、故人や遺族に対して失礼な行為であると考えています。
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Q「家族葬」のメリットとデメリットを教えてください。
今日、「家族葬」という言葉が定着しましたが、その定義は斎場によって様々のようです。ここでは、かりに「近親者だけが参列(参拝)し、周囲には知らせない葬儀」とします。また、メリットとデメリットについては、費用面をはじめ、手間や時間、肉体的及び精神的な疲労など、人によって負担に感じるところも違ってきます。あくまでも一例だとお考えください。
【メリット】
・多くの会葬者へ対しての気配りや応対の必要がない
・会葬御礼(謝辞や返礼品)に気を遣う必要がない
・会場を小さくするなどして葬儀費用を軽減できる
・会葬者が少ないために焼香などの時間が短縮できるく
【デメリット】
・会葬者の選定に困る(連絡する人と連絡しない人の選別)
・会葬者が少なく淋しい(静かと感じてメリットと思う人も…)
・事後の弔問対応(事後数週間、自宅に弔問客が訪れることもある)
・香典が期待できない(香典は相互扶助)
・会葬希望者の思いに応えられない(会葬拒否を失礼と感じる人も…)
※お葬式の費用は会葬者数とは比例しておらず、家族葬に割高感があるようです。
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